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サラセニア 

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サラセニア

「ああ、いやんなっちゃう」
 ここ何週間も分厚い雲に覆われた空を見上げて、もう何回目かのため息を吐いた。曇りと雨とを延々と繰り返す天気も嫌だし、派遣会社の社長の理不尽な態度も、派遣先の冴えない係長のセクハラまがいの言動も、仕事を押し付けてくる同僚も、どんどん値上げするガソリンも全部全部嫌。
 フロントガラスを拭くスタンドの店員と目が合って、それもまた癪に障る。もう、なんで見てるのよ。視線を落とすと、スマホの画面がぱっと光り、ラインの新着を知らせた。見ると今来たものの他にも数件入っていたようで、そのほとんどは由美からの欠勤を心配する内容だった。今日の朝、体調が悪いと休みの連絡を入れたのがもう伝わったらしい。既読を付けないようにして、そっと画面を閉じた。ごめんね、今日は一人を楽しむ日なの。

ガソリンスタンドの店員の大きな声に見送られて、混んだ二車線道路にようやっと乗り出すと、直ぐに信号で引っかかる。朝は弱いくせに会社に行くのと同じ時間に出てきたせいで、どんより曇り空も相まって心が悲鳴を上げそうになる。気分転換にと慌ててアイポットを繋ぐと、流れてきたのはエンヤのアルバムだった。歌詞のある曲を聴くのがどうにも苦手で、三日前に別れた彼とは喧嘩になったことさえあった。結婚まで約束してたのにね。
後ろからクラクションを鳴らされて、とっくに信号が変わっていたと気が付く。ああ、幸先悪い。アクセルに足をかけて、すでに動いていた片車線の流れに合わせた。

***

 会社をサボったドライブの行先は決まっていた。昨日の晩、スーツも脱がずベッドでネットサーフィンをしていた時に偶々見つけた地方の廃墟だ。一枚の写真に惹かれ地名を調べると、どうやらこの街から車で三時間ほどの村らしい。大きな木造建築の洋館のいたるところにツタが這い自然に呑まれゆく荒廃感に心を掴まれて、気が付くとドライブの計画を立てていた。
 余り有名でないのか廃墟マニアが集まるサイトでもその廃墟に関する情報はほとんどなく、写真一枚と古い周辺地図が見つかっただけで、いつもなら信ぴょう性すら危いと止めるところなのだが、ここ数日特に自暴自棄っぷりに拍車がかかっていたせいで、なるようになれと弁当まで用意していつもより幾分早く眠りについた。
 
 街中は混雑していたものの街を抜けると建物も車もまばらになり、農道へ出た頃には車は、中古で買った私の白いデミオと畑の中に停まっている農機だけになった。ビルに遮られない太陽の光は、雲ごしでも街より断然明るく感じ、幾分か気持ちが晴れる気がする。最近はめっぽう気が滅入っていたから、これは良い機会だったかも知れない。信号も交差点も無いまっすぐな一本道を飛ばすのは爽快だった。
 

 慣れないドライブをして集中力が切れお腹も空いたので途中の道の駅でお弁当を食べることにした。おにぎりを頬張りながら大分色づいてきた広葉樹を見て、晴れていたら完璧なのにと思う。空気が美味しく、ここ数か月では一番といっていいほど気分が良かった。
 せっかくの遠出だからと店舗に入ると、伝統工芸品やらご当地キャラクターグッズに混ざって、この辺りの地図が売っていた。詳しい地図が一枚あっても良いかもなと一冊手に取りそのまま視線を滑らせると、手ぬぐいに地図が印刷された商品が目につく。あれ、どこかで。ハンドバックから昨日カラー印刷した地図を取り出すと見事にぴったりと一致した。いつの間にかすぐ近くまで来ていたのだ。
 現在地を目印にして地図を照らし合わせると、どうやら数十分とかからず目的地に着きそうだった。高台のここから見るに、森のほうへ走っていくようだ。あの辺かな、と目星をつけたところはちょうど空がぽっかり青い穴をあけていた。

*** 

 いよいよ到着かと鼻歌交じりにアクセルを踏む。晴れたところを目指すのだ。進むにつれて、森の手前に村があるのが見えて、調べて得た少ない情報の一つを確認し心が躍った。
 村に差し掛かった時、BGMとして絶えず曲を流していたiPodがぷっつり切れた。電池がなくなったらしい。あと少し耐えてくれれば。静まった車内に耐えられなくて、FMを聴こうと試みるがどこのチャンネルも繋がらない。気が付けばもう村に差し掛かっていて、青の穴の下に居た。

 村の細道を徐行で走るが、全く人の気配がしない。廃村というには朽ちた様子はなかったが、不気味なほど静かで、“そこで何かが生きていた“という感じがしなかった。
 ここまで来たからには、あの朽ちた洋館を拝まなくちゃ。こんな風に遠出する機会は、独り身の私にはそうない。何となく、目の先の森の奥に写真の屋敷があるのがわかって、どこか呼ばれている気さえしてアクセルに力を込めた。
 
 森は樹齢云年というような立派な木で構成されていて、洋館が生きていた当時は重要な建物だったのではと思わせる壮大さだった。車で入れそうな入り口は見当たらず、仕方無しに車を降りる。村に人の気配は全くなかったのだから、車上荒らしに会う心配もないだろう。写真だけ撮ろうとスマホを取り出すと、いつの間にか電池が切れてしまっていたようだった。
 財布もスマホもいらないのではただの邪魔な荷物になってしまうので、ハンドバッグは車に置いて獣道を進んだ。幸い草は膝ほどの丈のものがほとんどで、ジーンズを履いていた私は余裕をもって歩くことが出来た。
  何分立っただろうか、時間を確かめるものは持ち合わせていなかったが、足が疲れてきたころ目の前がぱっと開けた。
 急に明るくなって空を見上げると、ここだけ木が生えず開けていて、真っ青な空が広がっていた。久しぶりの青空に胸が高鳴る。それから眩しさに慣れて前方に視線を向けた時、いつか写真で見たあの洋館が建っていた。
そして驚いたことに、洋館は生きていた
 
 木造建築のすりガラスには青空が映り、自然の呑み込むようだと思っていたツタは、暑さをやわらげる道具として利用されていた。重厚に作られた左右対称の玄関は、客を招き入れるように開かれていて、私もその例外ではないように思えた。そこへ行きたい! そう強く感じた時、突風が背中を押した。

 高鳴る気持ちを何とか抑えつけて、私は洋館へ足を踏み入れた。

うわぁーー、お久しぶりです! こんばんは。今年もよろしくお願いします!

いつものように何度か覗きに来てはいたのですが、更新はすっかり途絶えてしまっていました……。

今回も、大学のサークルの文芸会の作品です。

作り方は少し特殊で、メンバーのツボだぜポイント(性癖シャッフルゲームというやつ)をそれぞれ数個書き出して、くじにして引いたワードにまつわる小説を書くというもの。

私が引いたワードは、「廃墟」「iPod」「派遣社員」でした。

なんとなーくホラーテイストのつもり。

それからドライブ欲を少し詰め込んで(笑)

雪が溶けたら、少し遠出してどこかへ行ってみるのを楽しみにしているのですよ。

最も、enyaさんの曲では眠ってしまいそうなので、もうすこーしロックな曲を聴くと思いますが……


もうひと作品ストックがあるので、それの推敲が終わったらまたアップしに来る予定です。

それでは、良い夜を
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