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【貘の見た夢】3.医者 



一話【帽子の男
二話【アオイ

3.医者

 部屋の扉をノックしたのだから、中から人が出てくるのは当然と言えば当然だった。それでも、思わぬ出会いに身構えたアオイは、一歩下がって様子を伺う。
 見た目だけは重厚なその扉は、開錠の音とドアノブの音と、二回の金属音を鈍く響かせる。それから、扉はゆっくりと開く。開いた隙間から煙が漏れ出ているのを見て、アオイがぎょっとして小さく声を上げた。
 煙の正体はすぐにわかった。部屋から出てきた男が煙草を咥えていたからだ。長身の黒い髪の毛はぼさぼさで、ダークグレーの上下のスウェット姿が妙に似合っている。気怠そうに金縁の外枠にもたれる姿は、フォーマルな服装の帽子とは対照的で、ちぐはぐな雰囲気を醸し出していた。

「何か用かい? 帽子」
第一声はぶっきらぼうで、初対面のアオイでも機嫌が余り良くないことはすぐにわかった。いずれ屋敷の住人に会うのはわかっていたが、こんな出会い方じゃなくてもいいのにと思う。出直すべきではないかと帽子に目を向けるが、彼は気に留める素振りも見せない。
「よう、ヤブ医者。ちょうど前を通ったんだ。今からいいか?」
『ヤブ医者』というのは、アオイの知る限り悪口のはずだった。機嫌を案じるどころか、この場に不相応な返事が続き、アオイは思わず息を飲む。前に立つ帽子に、男は露骨に嫌な顔を向ける。当たり前だ。しかし、ヤブ医者と呼ばれたことには特に指摘はせず、右手に持っていた吸いかけの煙草を口元へ運んだ。
「ああ、今は仕事中でな」
「嘘だな。あんた、仕事中は煙草を吸わないだろう?」
「……急ぎの用事かい?」
鼻からゆっくりと白い煙を吐き出す。だいたい君はいつも急なんだ。そう言いながら、再び煙草をくわえた時、ようやくアオイと目が合った。それまでアオイの存在に気が付いていなかったようで、驚いたのか動きが止まる。男の視線が頭からつま先まで、無遠慮にゆっくりと這った。そして、口から煙を吐きながら、ああなるほど、と呟いた。
「やっと目覚めたってことかね」

診察を頼みたいと言う帽子の言葉に、医者の男は余り気乗りしないようだった。渋っている男に、帽子が迫る。
「どうせ何にもしていなかったんだろ? 出来れば早いほうが良いんだけど」
「することが無い訳じゃない。誰かさんが担当している瓶が、なかなか提出されなくてね。作業が進まない」
「それは謝るよ。さっきゼロに戻ったばっかりなんだ。もう少し待ってくれ」
「頼むよ、全く」

「さて、調剤か。ここじゃ無理だな。診察室へ先に行っててくれるかい? 僕もすぐに行くよ」
鍵はこれで。そう言って、帽子に渡したキーケースには、大小様々な鍵が束になっていた。受け取りながら、帽子は眉根をひそめる。
「どれだよ」
「その中のどれかだ」
じゃあ準備をしてくる。言って、呆れる帽子を余所に、医者の男は部屋の中へ消える。金属音が二回鳴る。
残された帽子は、アオイの方へ向き直った。
「ごめんな、案内は後だ。調剤はなるべく早いほうがいい」
一刻も早く。帽子が小さく呟いたのを、アオイは見逃さなかった。瞬間に見せた表情は、どこか焦っているようにも見えた。私の記憶が無いところで何かが起きていた……? 推理するための記憶すら持たないことに、もどかしさを感じる。

「ここだよアオイ」
声がかけられて、現実に戻される。診察室だという部屋は角部屋で、他の部屋よりもかなり大きな作りをしているようだった。扉は他の部屋と同じものだったが、何度も出入りするためかドアノブは変色していた。
 ガチャガチャと鍵を探している帽子の背に、そういえば、と問いかける。
「何の診察?」
「アオイは長い間眠っていたからね、一応診てもらおう。……よし、開いた」
「わ……!」

 帽子が電灯をつけて、部屋の全貌が露わになる。それは、診察室というよりは、実験室のように見えた。
 黒い革張りの椅子が向き合うように置いてあるのは、診察室的と言えるだろう。事務机にもいくつかのガラス容器と、それから小さな箱が載っていた。
 正面の窓はカーテンが閉まっておらず、数本の大木が落ちていく陽に照らされているのが見える。診察室の部屋の右奥は、カーテンで仕切られていて、見ることが出来ないようになっていた。
 扉側と左の壁との二つの壁には棚が置いてある。天井まで届くそれらの棚には、瓶や試験管、フラスコやらのガラス容器の類が無秩序に並んでいた。そのうちのいくつかは濁っていたり、液体が入っていたが、残りはすべて透明で空に見えた。
 
 二つ目の棚を覗き込んでいるとき、医者の男はようやくやってきた。
 アオイは慌てて、棚から離れて医者と向き合う。
「遅くなった、すまない」
着替えてきたようで、もうスウェット姿ではなく、代わりに白衣のようなものを着ている。両手に持っていた瓶を帽子に預けて、医者の男は話し始めた。

「自己紹介が遅れたね、すまない。僕はここで医者をやっている。そうだな、この男が『帽子』なら、僕のことは『医者』と呼んでくれればいい」
「い、医者? ここの人たちは名前は無いんですか?」
「ここで医者をしているのは僕しかいないからね。でもまあ、名前が知りたいのならそのうちわかるだろうね」
一人しかいなければ職業名で呼ぶのは、ここの常識なのだろうか。アオイは悶々と考えるが、医者の自己紹介はすぐに切られてしまう。

「いやしかし、目覚めて良かったね。帽子が連れてきた時はどうしようかと思ったが」
「そんなに大変だったんですか……?」

「まあ、それなりさ。君の名前は?」
「『アオイ』です。今日からですけど」
「アオイ君か。帽子が考えたのかい?」
そう、彼が。言って、医者と共に後ろにいた帽子のほうを向くと、彼はばつが悪そうに目をそらした。
 アオイはきょとんとしたが、医者は面白いことを聞いたと口を開けて笑った。
「珍しいこともあるもんだ! 良い名前じゃないか」
笑われた帽子は、面白くなさそうに、瓶を持ってカーテンの向こうへ消えた。


「さて、元気そうで良かった。ちょっと待っていてくれ、薬を用意する」
医者が踵を返すので、アオイは慌てて呼びとめる。
「診察しないんですか?」
「うん? ああ、もう診察は済んだよ」
「はい?」
「僕は患者の外見を見るだけで、容態がわかるからね」
医者の言っていることが呑み込めずに混乱していると、戻ってきていた帽子が茶々を入れた。
「本当かどうか、わからないぞ。これだからヤブ医者は」
「帽子、余計なことを言うんじゃない」
「どうやって診察を……?」
「診察の方法はいつか教えよう。今は詳しく説明するのは難しいからね。ヒントは『音』だ」
音? そうアオイが問い返すが、医者はそれ以上の追及に答えなかった。
 

「それじゃあ、アオイ君。君の薬だが……」
言いながら、医者は一度カーテンの向こうへ消えた。それからすぐに、何か箱のようなものを持って出てくる。
掌に載ったそれはオルゴールに見えて、アオイは自分の目を疑う。何事かと医者を見ると、彼は一気に話し始めた。

「このオルゴールを聴いてくれたまえ。最初の一週間は一日三回だ。朝起きた時と、寝る前と、その間に一度。聴くときは必ず三回巻いて。多くても少なくてもいけない。二週間目は寝る前だけ。これも三回巻いて、多くても少なくてもいけないよ。音が聴こえなくなるまで使ってくれたまえ。大体15日で聴こえなくなるはずだ。それまで必ず聴くこと。わかったね?」

これだけのことを一息で言うと、医者は黄色の箱にしまって、アオイに差し出した。「一応箱にも書いておいたから」
「……わかりました」
両手に収まるほどの小さな箱を受け取る。側面には確かに、医者が言った通りのことが書いてあるようだった。
「音……、か」
書き殴られた文字を眺めて、アオイは『音』の治療について考える。
当然のように良い考えは浮かばず、ため息を吐いたところで、医者の言葉が割り込んだ。
「じゃあ、後は君しだいだ。何かあったら、僕のところに来るといい」
少しは力になるだろう。そう言うと、医者は白衣を脱ぎながら足早に出て行く。

「俺たちも戻ろうか。必要なところだけ、案内をするよ」
「ありがとう。ねえ、音ってなんだろう」
「……時が来たら教えてくれるさ」
やっぱり教えてくれないのか。唸りながら、アオイは箱とにらめっこを始める。処方箋を何度も読んだ後、奇妙な処方箋の右下に、何故か小さな鳥が描かれているのに気が付いた。
これ、なんだろう。
 新たに考えを巡らせたとき、後ろから声がかかった。
「お腹空いたんじゃない? 部屋に戻る前に、何か食べようか」
みると、帽子はもう扉の所にいて、電気を消す準備をしてアオイを待っている。
 箱とのにらめっこは一時休戦にして、アオイは帽子の後を追った。
 
***

「一、二、三……」

 つまんでいた小さなハンドルを離すと、シリンダーがゆっくりと動き始めた。ピンが櫛歯を弾き、音が鳴り始める。
 オルゴール特有の優しい音色が小さな部屋に響く。あてがわれた部屋の寝台に座って、アオイはその曲を聴いていた。曲はどこか懐かしいような気もしたが、実際馴染みの曲だったのかは知りようが無かった。聴いて、何かを思い出すわけでも無い。
 ただ、薬であるということも忘れ、アオイは目をつぶってその曲に聴き入っていた。


こんばんは。

ようやく3話ですー!

登校日やバイトで、なかなかブログに来れていませんでした(/_;)


とりあえず、このお話は三か月ぶりの更新です

なんとかStellaに滑り込みました笑

さて、主要キャラクターが揃ってきました。


この世界のことも、だんだん明らかになってきましたね。

全貌まで、もう少しお待ち下さい(^o^)




できれば、夏休み中に執筆を進めて、一ヶ月に一度更新にしたいのですが…

頑張りますp(^^)q

彼らを見守ってやって下さいな
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カテゴリ: 獏の見た夢

テーマ: 自作連載小説 - ジャンル: 小説・文学

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コメント

こんばんは~

今度は医者さん登場ですね。
アオイがどんな事情で眠ったのか解りませんが、目覚めた眠り姫には診察は必要です。
瓶とかゼロとか少々気になる言葉が並んでいますが、なんでしょうね?
「目覚めて良かったね。帽子が連れてきた時はどうしようかと思ったが」は聞き捨てならないセリフです。なんだかやばそう。アオイにいったい何が起こったんだろう?
説明を待つことにします。
そして医者さん。いい加減に見えますが実はなかなかの名医なのかも。診察のやり方はとても変わっていますが、それはこの世界の事情でしょうし、手際がいいですよね。
オルゴール(音)が薬?そして不思議な処方箋。飲み方(聴き方)は結構複雑で、サキだったら絶対忘れそうです。アオイにとってなにか由来のある曲なんでしょうか?処方箋通り聴き続けると何が起こるんだろう?
なんて不思議な設定。こういうの大好きです。

山西 サキ #0t8Ai07g | URL
2016/09/08 19:26 * edit *

サキさま

こんばんは。

今回は医者の登場回でした。
メインキャラが揃うにはあと一人、かな。

アオイの眠りと記憶の謎は、もう少し時間をかけて出していきます……!
ここまででも、瓶や容器がたくさん出ましたね。
ゼロのヒントはもう出てきていたり……?
この話で瓶が沢山登場するので、お店などで見かけるとかなり見入ってしまいます。
観察して、欲しくなったりして(笑)

医者は一人でやっていけるくらいですから、なかなか腕は良いのかも知れませんよね。
でも、帽子やアオイの反応の限りだと、常識ではないのかも?

まだ、始まったばかりなので謎が多いです。
次からばらまいた伏線をちょっと回収する話が入ってくる予定、、、です;

頭の中ではもう完結している話なのですが、文章に起こすとうまく表現できなくてもどかしいです。
なんとか上手く伝わるように精進します……!
読んでくださってありがとうございました^^

コメントありがとうございました!!

スカイ #- | URL
2016/09/09 02:12 * edit *

おや

こんばんは。

アオイ、寝ていただけでそんなに具合悪くなさそうなのに、実は深刻だったのですか。
帽子はとても親切。ヤブ医者、もとい医者もブツブツ言っていますが、実は親身になってくれているようですね。

そして、オルゴールが処方薬というのは驚きました。
そうか。どこか懐かしい想いを呼び起こすオルゴールには、癒しのちらがあるかもしれませんよね。そして、アオイの記憶を呼び戻すことができるのかも。

これからどうなっていくのか、ますます続きが楽しみになりました。

八少女 夕 #9yMhI49k | URL
2016/09/09 05:39 * edit *

夕さま

こんにちは。

別に身体に異常はない感じなんですけれどね、薬を処方されました。
医者も帽子も、妙に親切ですよ。
でも記憶が無いと不安ですよね……

そうなんですよ!
オルゴールで治療なんです。

そういえば、音楽を聴いていると、前に聴いた時の風景とかを思い出すことありますよね!
帽子はヤブ医者と呼ぶけれど、案外医者の治療法は捨てたものではないのかも?

こうして長く続けるつもりでやると、自分の頭の中のものをうまくアウトプット出来なくて、もどかしいです。。。
なんとかして、私の頭の中にあるものに近いものをブログに公開できるよう頑張ります(^-^;
読んでくださってありがとうございました!

コメントありがとうございました!!

スカイ #- | URL
2016/09/10 15:46 * edit *

独特の世界で起こる何か!

普通の世界の「病気」とかとは違う、この世界独特の「病気」があるのですね。そういえば「千と千尋の神隠し」でも「この世界のものを食べなければ消えてしまう」ってなシーンがありましたね~。きっとこの世界の特別な事情があって、それがどんな風にアオイの身に降りかかってくるのか、楽しみです。スカイさんの世界には、その世界を特徴付ける事情があって、その事情が本当にユニークで、スカイさんらしい世界が生まれているような気がします。
処方箋、オルゴールかぁ。それ、いいなぁ。
登場人物がまたいいんですよね。特徴を名前でちゃんと言い表していて、かといって、その通りの人物かと言うと、そうでもないかもしれなくて。
まだ始まったところ。楽しみに先を待っています。

大海彩洋 #nLQskDKw | URL
2016/09/17 12:32 * edit *

彩洋さま

こんばんは。
お返事遅くなりました!

ええ、この世界は実は結構独特の世界なんです!
わかりやすいように書くことを努力します……!

そういえば、千と千尋でもそんなシーンがありましたね~!
体が透けちゃうやつ。
ファンタジーには、色々な世界事情がありますよね。
獏の見た夢の世界事情が全て明らかになるのは、結構先になるような気がします。

音で治療をする医者っていう設定は、実は初めて医者の絵を描いたときからずっとあるんですよ。
それから、いつかネットで見た、大きな手動のオルゴールがモチーフになっていたり。
今度紹介できればいいなあ。

私は、登場人物の名前を付けるのが結構苦手なんですよね。
それで、とりあえずの呼び名は、物の名前だったり職業名だったりでいいかな。と笑(いいのか)
亀更新で、全然話が進まなくてすみません( ;∀;)
前回の内容とか、忘れてしまいますよね。頑張って書かなくちゃ……
楽しみにして頂けると嬉しいです!

コメントありがとうございました!!

スカイ #- | URL
2016/09/19 21:11 * edit *

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