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獏の見た夢 2.アオイ 

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2.アオイ

 そこは八畳程の小部屋だった。
 生活をする部屋というよりは、仕事部屋として使われているようで、整理された棚には、ファイリングされた書類が背表紙に書かれた番号の順に並ぶ。僅かに開いたスペースには、仕事道具なのか、はたまた彼の趣味なのか、大小様々な透明の瓶が置かれていた。
 窓際にある机は、木の木目が主張されたデザインで、深みのある茶色が窓から入る明かりで反射する。几帳面に整理された書類と共に、机上にも同じような瓶が数本並ぶ。透明の瓶の中には何も見えなかったが、コルク栓が閉じてあった。

 今、彼女の目の前、椅子に座って彼女を見ている男がこの部屋の持ち主だ。不健康そうな青白い肌をもつ整った顔立ちは、まだ若い。しかし、目深に被った帽子の向こう側には透き通った白い髪の毛が覗いていた。
 部屋の前で最悪の出会いを遂げた後、着ていた借り物の服をみてか、彼はすぐに彼女が目を覚ましたのだと気がついた。そして半ば強制的に一階のこの部屋、メモ用紙に書かれていた『二番目の部屋』まで連れて来たのだった。

「……あのさ、聞いてる?」
「あっ、ごめん」
 部屋をキョロキョロ見回していた彼女に、帽子の男が声をかける。全然聞いてなかったや。彼女が呟くと、あのなぁ、と苦笑いをした。そんなに気にしていなかった風で、そのまま話を続ける。
「しかし、部屋の前にいたから驚いたよ。俺の部屋、誰かに聞いたのか? それとも迷ったとか?」
「いや、たまたまあの部屋の前に……」
「ははは、まあ、広い建物だしな」
 運が悪いなお前。爽やかな笑顔を向けられて、つられてへらへらと笑う。ぶつけられたのは彼女だったが、 盗み聞きをしようとしていた手前、恨みがましいことは言えない。彼女の額には大きなたんこぶが出来ていた。

「驚かせてごめん」
「良いさ。無事で良かった。じゃあ、いくつか聞きたいことがあるんだけど」
 組んでいた足を降ろし、彼女に向き直る。その拍子に机の上の瓶が倒れた。しっかりと閉まっていなかったのかコルク栓が外れる。瓶に変化は見られなかったが、倒れた瓶を拾い上げ、彼は小さく舌打ちをした。
「……悪い、気にするな。その、名前を教えてくれるか?」
「ええと、覚えていない」
「じゃあ歳は?」
「全部覚えていないんだ。名前だけじゃなくて、今までのこと何もかも」
「……何もかも?」
 そうそう。肯定し、なんでだろうなぁ、と首を傾げる。
「じゃあどこから来たのかは……?」
「だから覚えていないんだって」
覚えていたらとっくに帰ってるよ。
 おどけた風に彼女が言う。軽い口調で発された彼女の言葉が、瓶をもてあそんでいた帽子の細長い指をピタリと止めた。俯いた目の前の男は、何かを考え込んでいるらしい。名前さえ覚えていないのに、それってそんなに重要? 口にはしないが、彼女は心の中で思う。

 やや暫くの沈黙の後、帽子の男は唸り交じりに話を再開した。
「……珍しいな」
「ごめん」
「いや、謝ることはないよ。じゃあ、とりあえず名前つけるか」
「名前?」
「……何か思い出すまで使ってくれよ。呼ぶのに不便だからさ。『アオイ』とか、どう?」
「あおい? それって今考えた?」
「……そうだけど。嫌? もし嫌なら別のを」
「いや、いいよアオイで。なんだかしっくりくるし」
 言って、何度か口の中で名前を復唱する。そうしていると、自分は昔からそう呼ばれていたような気がした。
 
「君はなんて呼べばいい?」
「俺? 俺は、『帽子』で」
自分のかぶっている帽子を、指先でトントンと叩いて、よろしくな、と微笑む。
「え、名前教えてよ」
「みんなそう呼ぶから、名前と変わらないだろ?」
「帽子脱いだら? 脱帽さん?」
「うるさい。脱いでも帽子だ。呼んで振り向きゃ、何でもいいだろ」
吐き捨てるように言って、目深に被った帽子をさらに下げる。鍔の下から拗ねたように睨む淡いグレーの瞳が、お前の前では絶対に脱がない、と意思表示をしていた。
「ごめんごめん、帽子さん」
 それにしても、名前を教えたくない理由でもあるのだろうか。すごく変な名前とか?
 言う気がないなら名前を当ててやろう。アオイがそんなことを考えている間に、帽子は話題を変えていた。

「これからアオイには、しばらくの間この建物内で暮らしてもらう」
「えっ、ここに住むの!?」
 想定外の帽子の言葉に、思わず立ち上がる。
 アオイの驚きに反して、彼は平然と答えた。
「だって、何も覚えて無いんだろ?」
「うん……、まあ」
「じゃあとりあえずはここに住めば?」
「それもそうか」
「決まりだな。あの部屋は自由に使っていい。何か必要なものがあれば俺に言ってくれ」
 アオイの意見が入り込む余地もなく、帽子はテキパキと話を進める。言いくるめられたようで悔しかったが、見知らぬ所で記憶がない状態ではそうするのが賢明なような気もした。

じゃあ、屋敷を案内しようか。言って帽子が立ち上がる。アオイも次に続く。
 磨かれた曇りのない窓から入る明かりは今はオレンジ色で、そこで初めてもう夕方だったのだと気がついた。
 目覚めた部屋と同じような装飾の施されたドアノブに細長い指をかけて、そうそう、と思い出したように帽子が言う。
「後でアオイに会わせたい人がいるから、付き合ってくれな」
「会わせたい人?」
「そう、そいつは医者なんだが、なかなか目覚めないお前の事を心配していたからさ。目が覚めたって報告しに行こう」
 眠っている間に医者の世話にまでなっていたということに驚く。アオイの想像していた以上に、丁寧に扱われていたということだろか。
 
考え込んで俯いたアオイが、再度顔を上げた時には、帽子はもうドアを開けて廊下に出ようとしていた。追うように外に出て、姿勢の良いグレーのベストの背中に声をかける。
「なんだか迷惑をかけてごめん」
「平気平気、気にするな」
 沢山のドアが並ぶ廊下を、帽子の後について歩く。一つ一つのドアの中からは僅かに物音が聞こえ、人がいるのがわかる。共同生活をしているのだろうか、家族で住むにはあまりに広い建物だった。

ふと、前を歩いていた帽子が立ち止まる。そしてアオイの横に並び、速度を合わせて歩く。
「ここらのドアは引く開き戸でな、存外扉は薄い」
 言って、トントンと横にあった扉を叩く。響いた音は、重厚な見た目よりは確かに薄いのだと感じさせた。
「まあ、アオイだとは思わなかったんだけどさ」
「はぁ?」
何の話だろうと首を傾げるアオイに、帽子は額のたんこぶを指さしてニヤリと笑みを浮かべた。
「怪我をしたくなかったら、盗み聞きは控えた方がいい」

こんばんは。
やっとこさ「貘の見た夢」の二話目です。

今回でようやく名前が明らかに。

彼らを呼びやすくなりました笑

話はまだまだ始まったばかり。

彼らを見守ってやって下さい
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コメント

あう

こんばんは。

こちらのコメントを書こうと思っていたら、もう次の作品が……。
カメ反応ですみません!

アオイかあ……。
誰かさんの本名と同じで(誰かじゃないよ……)他人とは思えない。
なんてことはさておき、ずいぶんと長く寝ていたようですね。
アオイ本人も十分謎ですが、よくわからない人が登場したのにテキパキ話を進めて行く帽子も謎です。

そしてお医者さんもでてくるのですね。
この謎のお話がどうなって行くのか、ドキドキしながら続きを待たせていただきますね。

八少女 夕 #9yMhI49k | URL
2016/07/04 03:32 * edit *

こんばんは!

すこしづつ物語の世界が明らかに・・・といってもまだまだ何のことやらわかりませんが。
でも名前が付いたのはありがたい。帽子さんにアオイですか?
あら、これ夕さんの本名じゃないですか。サキも使ってみたかったんだけど、先を越されてしまいましたね。この2人の関係がアオイの記憶が無くなる前はどうだったのでしょう?とっても気になります。なんだか馴染んでいる雰囲気ですし。
この大きな建物が何のためにあるのかな?たくさん人が住んでいるみたいだけど、いったいどんな人々?
?を抱えたまま次回を待ちます。

山西 サキ #0t8Ai07g | URL
2016/07/04 20:06 * edit *

夕さま

こんばんは。
お返事遅くなりました!

いえいえ!反応いただけるだけで本当に嬉しいので、全然かまいませんよ!!!


な、なんと!
夕さんの本名でしたか!!
キャラクターの名前が身近な名前だと、他人とは思えないこと、結構ありますよね!
アオイは高校時代の友人の名でもあるのですが、まさか夕さんの本名でもあるとは……

現時点では謎を張り巡らしています(笑)
徐々に回収していく予定です、是非謎を貯めてみて下さい(^^)/

次回は医者も登場予定です~
私の頭の中で組んでいる話を、うまく文字にして伝えられますように!!
頑張ります(^^♪

コメントありがとうございました!!

スカイ #- | URL
2016/07/07 00:07 * edit *

サキさま

こんばんは。
コメントが遅くなりました!

徐々に物語の世界を出していく予定です。
けれど、まだもう少しかかるかな?

私の小説は名前がないものも多いのですが、これは名前があるバージョンです(笑)
そして夕さんの本名だったのですよーー!
全然気が付かずにつけてしまいました……
サキさんも使おうとしていたのですね。素敵な名前ですし、サキさんの「アオイ」も見てみたいです!

記憶についても、後々触れていきますよ~!
謎は徐々に回収していきます。
上手く伝えられるように頑張ります!!!

コメントありがとうございました!!

スカイ #- | URL
2016/07/07 00:14 * edit *

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