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 洋服店のショーウィンドウの中では、煌びやかな衣装と共にネオンが光る。それが、大きなクリスマスツリーに飾られた金色のベルに映ってひと際輝いた。明日の夜には、恋人たちが写真を撮るために群れるのだろう。その光景を彼とともに眺めるのを想像して、笑みが漏れた。いつか言っていたように、人込みは苦手なんだって遠巻きに見ようとするのだろう。それを私が引っ張って……。
 うん、明日はここにも寄ろう。
 
 札幌駅の赤いオブジェに集合して、それから歩いてすぐの赤レンガテラスで食事をして、大通り公園でイルミネーションを見る。それが明日のデートプランだった。ミュンヘン・クリスマス市で買い物をしても良いし、せっかくだからテレビ塔にのぼるのも悪くない。他に寄りたいところがあったら、当日までに考えておいてよ。そんなやり取りをしたのが二日前。文字越しに彼の微笑みを想像して、寮のルームメイトにからかわれたのを思い出す。

 彼は札幌の中央区に住む社会人で、私は田舎出身の手稲の大学生。住む世界が違うような気がして、引け目を感じていたから、クリスマスの夜を空けてくれたのが本当に嬉しかったのだ。下見に行きたいので、今日の家事当番を代わって欲しいとルームメイトに頼むと、にやりと笑って送り出された。「これは貸しだからね」なんてことを言う。

 しばらく歩くと目の前にイルミネーションが広がった。青から白へ、波のように光が躍る。今年のテーマはなんだったろうか。遅くなってしまったために見物客はまばらで、ゆっくり眺めながら歩く。ミュンヘン・クリスマス市を覗くと、店はどこも閉まっていた。大学で予定を済ませてから来たのを後悔する。仕方なく、ログハウスの小窓から商品を眺めた。スノーマンやサンタクロースが所狭しと並ぶ。よく見ると、少しずつ表情が違うのだ。

 次のお店は……。移動しようと顔を上げた時、向こうからカップルが歩いて来るのが見えた。社会人のようで、会社帰りなのか二人ともスーツを着ていた。どこのブランドだっただろう、コートは彼とお揃いだ。社会人の間では流行っているのかも知れない。彼女のタイトスカートからのびる美脚は生足で、寒くないのかなと思う。閉店した市場は電灯が少なくて、あまり顔は見えない。それでも、スーツの似合う長身の彼らは、美男美女かな、なんて勝手に想像する。
近づいてくるにつれ、なんだか鉢合わせるのが恥ずかしくなって窓のほうへ向き直る。少しお酒が入っているのだろうか、彼女の大きな笑い声が閉店した市場に響く。なんとなく興味が湧いて、あるいは彼らの関係に憧れたのかもしれないが、窓越しに二人を見てやろうという気になった。段々雪を踏む音が近づいて来る。
 
 閉店した店の窓は、辺りをよく映す。ログハウスの小窓が写し取ったのは、美人の彼女の首に巻かれた見慣れたマフラーだった。体がキュッと強張る。彼女の笑い声に交じって、よく知った優しい声が聞こえた。
「寒くない?」
「うん。マフラー、ありがとね」
 
 振りむいた先に見えた後ろ姿は幸せそうで、おろした手はしっかりと繋れていた。スーツの後ろポケットを、煙草の箱で膨らませるのは彼の癖だった。少しごつごつした手が、彼女の髪を撫ぜる。『お似合い』のカップルだった。そうそう、今日はクリスマス・イヴだっけ……。

 クリスマス市をでてイルミネーションへ戻ると、LEDの光は一斉に消えてしまった。時計台は十時を指していた。そうか、もう終わってしまったのだ。
 手稲に戻る電車の中で、明日の断りのラインを送った。ほどなくして「わかった」とだけ返事が来た。

部屋に戻ると、ルームメイトが笑顔で迎えてくれた。知ってか知らずか何も聞かない彼女の優しさを感じる。「今日は冷えるね」そう言って入れてくれたココアの甘さが、体にじんわりと染みた。
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