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初夏の旅人 

こんばんは。

4月5日7000HITの時に、ウゾさんに「初夏の旅人」で小説リクエストを頂いていたのですが、

中々書けず、先延ばしになってしまっていました……

最近、色々な小説の案が浮かびまして、流れに乗ってようやく書くことができました!

リクエストありがとうございました!!

stella white12




『初夏の旅人』




嗚呼、風が吹く

風化する

消えてしまう

嗚呼、私の……



風が変わった。匂いも、色も。
薄紅色の甘い香りを漂わせていた其れまでの風は、この三日間で黄色みを帯びた深緑の風へと変貌を遂げた。山の上からはよくわかる。色が変わる其の様が。
私と共に日々を過ごした桜の妖精は、次の国へと移動した。そこで今頃開花を迎えているのだろう。きっと。
世界が変わっていく。そしてまた、取り残されるんだ。此処だけは、時間が止まっている。

「やあ、久しぶりだね」

声を掛けられて振り向くと、其処に居たのはいつか出会った少年だった。
ウルフカットのグレーの髪の間を、深緑の風がスルスルと通りぬける。
白い歯をニッと見せて笑うと、彼は私の横へ腰かけた。
私は何年も前から此処に座っている。

「また此処に居たのか」

「ええ、私は此処から動けないもの」

嗚呼そうだった。そう言って彼はすまなそうに下を向いた。
良いの気にしないで、と彼の小さな背を軽く叩く。二回、ポンポンと。
彼が顔を上げたので笑いかけると、彼も微笑み返してくれた。
彼の背はずっと小さい。私が彼と初めて話した時から、一回りだって成長していない。
けれど、私とは違う。彼の時間は、ゆっくりと流れる。時間が止まった訳ではない。

「サクラはもう行った?」

「何日か前に、此処を旅立ったわ。今頃はもう着いているかも」

「彼女は本当に忙しいな」

「ええ、本当に」

少年は桜の妖精が居なくなってから、此処に到着する。
だから、彼は桜に出会った事が無かった。
けれど彼はいつも私に確認をとる。‘サクラはもう行ったか?'
私が時を共にする桜の妖精はマイペースで、いつも最後に渡っていた。
だから、彼の問いに対する肯定は、彼が此処を通過することを許すという意味に等しかった。

「君に見せてあげたいものが沢山あるんだ。でも、僕は君を解放する方法を知らない」

「良いのよ。貴方の話を聞くだけで、私はかつて見ていたそれらを思い出す事が出来るもの」

「ああ、本当にすまない」

「貴方が謝る事じゃあ無いわ。誰も悪くないもの。それより、いつもの様に話をして欲しいの」

「ああ、そうだね。此処に居れるのも長くはない。さて、今日は何を話そうか……」

彼の瞳は、深い緑。深い緑は、時に青が混ざり、黄が混ざり、それはそれは目まぐるしく色を変えた。
小さな躯体に似合わない低くゆったりとした声は、彼に流れた何年もの時の経過を感じさせる。
彼はいつも、旅の話を聴かせてくれる。出会った妖精の事、眺めた動物達の事、私の知らない世界の話を沢山。
彼と過ごす時は、長い一年の中でほんの僅かだ。彼の役目は、後から来る彼の兄さんの道を創ることだったから、彼は何時だって移動していた。其の移動の合間、時間が止まっている私の所に居る時だけ、滞在時間を少しだけ伸ばして動けない私に旅の話を聴かせてくれる。
生まれ方が違う私を、蔑み除け者にする方は沢山居たけれど、彼は微塵もそんな態度を見せなかった。

「本当は、もう少し此処に居たいのだけど……」

寂しそうに、彼が言う。沢山の、世界の話を聴かせてもらえた。時間が動いていたあの頃へ、戻った気分になる事が出来た。本当に、楽しかった。
私との別れを惜しんでくれるのは、彼と一握りの妖精達だけ。
時間が止まった此処に、とどまろうとする方は滅多に居なかった。

「今年も貴方の顔を見る事が出来ただけで、私は十分よ。本当に楽しかった。ありがとう」

「今度こそ、君を解放する術を探してくるから」

「良いのよ私の事は。貴方にはもっと、すべき事があるでしょう?」

こうして彼と話す機会は、後何回在るのだろう。
そんなに、多く無い気がする。

「貴方に会えて、私は幸せよ。貴方の通り道に留まる事が出来て良かった」

「僕もそう思うよ。きっと、君を解放する。其の時まで、待っていておくれよ」

「ええ、ありがとう」

嗚呼、其の時にはもう私は世界に居ないでしょう。
そんな気がするの。もう、十分な時が過ぎてしまった。

「さようなら、また来年」

「さようなら。道中気をつけて」

少年は踵を返すと、新緑の風を身に纏い大空へと飛び立った。
嗚呼、出来る事ならばついて行きたい。貴方の其の小さな背を、追いかけて行きたい。
此の、祠さえ無ければ……。

人の手で創り出された私は、彼らがいなければ此処から動く事が出来ない。
私を創った山の麓の村は、ずっと昔にダムの底へ沈んでしまった。
人々に忘れ去られた時、祠の主は其処に縛られる。主の周りの時間は止まる。
忘れ去られた祠は、風にさらされる。そうして、誰にも気がつかれずに塵になって消える。
此の祠は、もうどのくらい風にさらされただろう。
サラサラと消えて行く風化の速さは、心なしか年々速くなっている気がする。
来年、私は彼に出会う事が出来るだろうか。
解らない。
いや、本当は解っているのだろう。
きっと……

私は、此の祠から解放されたかったの? 
忘れられる前なら、此の運命から逃れることもできたのに。
自分に聴いてみる。
‘そんなことはない’そう返事が返ってきた。
そうね、彼に出会えたもの。
時間が止まっていたから、彼に出会えたのだもの。
とっても、楽しかったもの。

時間が止まった此処は、沢山の方が質問に来る。
次にしなければならない事は、彼のお兄さんの質問に答える事。
彼が一番長く留まる、時間の止まった此の地を旅立った事を伝えねば。

‘初夏はもう行ったか?'

此処は、もうずっと時間が止まっている。



2013/12/03 Sky
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カテゴリ: 短編いろいろ

テーマ: 短編小説 - ジャンル: 小説・文学

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復讐 

――なあ、せんせ、聞いてくれよ

――何? ○○君?

――母……お袋がさ、最近うるさいんだよ。
俺がする事、何かにつけて文句を言ってきてさ!
言われなくたって、俺はちゃんと考えて行動しているのに

――あははっ、そうね。そういえば、先生のお母さんもそうだったわ。
でもお母さんは○○君の為を思ってそう言っているのよ、きっと。

――そういうもんなのかなあ……。八つ当たりな気もするんだけど。
なあ、せんせ、だから俺さ、考えたんだ。
スゲーこと。せんせ、驚くぜ?

――あら、何を?

――俺さ、お袋に復讐してやろうと思ってよ。
頑張って偉くなって金持ちになって、お袋が動けないくらい歳をとったら、皺くちゃの婆さんになったら復讐してやるんだ

――えっ……

――うーん、だからさ。
俺、やりたかないけど、勉強して、良い仕事についていっぱい稼ぐんだ。
そしたらさ、お袋が俺にあれこれ言った事後悔するくらいに、色々してやる。




世話してさ、旅行なんかも連れて行ってあげてさ。
もうめちゃくちゃに、皺増えるくらいに笑わせてやるんだ。

それが俺の復讐。

せんせ、母さんには内緒だよ?
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カテゴリ: 短編いろいろ

テーマ: つぶやき - ジャンル: 小説・文学

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こんばんは。

今日は友人に出して貰った三題で短編を書いてみました。

お題は「橙」「8月」「飴」

お題の一つ「飴」なんかは書いている途中すっかり忘れていて慌てて入れたモノなので一瞬しか出てこないという失態を犯しましたがまあいいや。

ちなみに、同じお題で藍樹さんにも書いて頂きました。(藍樹さんの作品はこちら



初夏の旅人』とリンクしている部分がありますので、よろしければ此方もどうぞ



では、初挑戦三題小説

どうぞ



『橙』



遠くで寒蝉の声がする。
熱を帯びた風が深緑の木々をあおり、葉が空を舞う。高い空を見上げると、瑠璃色の髪をなびかせて風の子たちが走って行くところだった。彼らとは長い付き合い。
風の子は任された一帯をいつだって駆けているけれど、決して遠くへは行かない。風の子たちの母親は世界の流れを創る役目。小さな小さな風の子は、母の流れをあちらこちらへ届ける役目。忙しなく駆ける風の子たちと話をした事は無いけれど、時々花の香りを祠へ届けてくれる彼らは時間の止まった小さな世界に変化を与えてくれた。

‘初夏はもう行ったか'

あの質問に答えてから、大分時が経った。
ここから見える景色は、淡い緑から深い緑へと変わり、その間を瑠璃色が駆けていく。小さな変化だけれど、とっても綺麗。
ただ、祠の周りだけは村が無くなってしまったあの日から、ずっと時間が止まっている。この山を残してダムの底へ沈んでしまった村。祠を創ってくれた村。
凍りついた時間は、祠が風化して消えて行くまで決して動くことは無い。

木々の間を縫って近づいてくる影が見えた。
赤みがかった明るい黄色の髪。あれはきっと橙の妖精。彼女の髪はいつも手入れされていてきらきらと光るから、遠くからでもすぐに分かる。
はたして影は橙だった。私の座る祠に駆けよってきた橙は、大きな瞳に涙を浮かべていた。

「お久しぶりですダイダイ。貴方の樹はまだ実をつけているんじゃ……」

「無いのよ! 何処にも無いの……」

「ええと……」

「急に無くなってしまったの。
ずっと守ってきた樹が、今日になって急に!
もうどうしたら良いのか解らなくって……」

橙の妖精は、樹がその一生を終えるまでの長い期間を独りで守る。彼女の樹は今年も緑の実をつけていたと初夏に聞いていたから、冬になれば白い景観に橙色を添える筈だった。
宿を無くした橙は、私と同じように時間が止まってしまうの?
いや、朽ちた樹はまた巡る。新しい時間が動き出す気がする。橙が此処までこれたのは、彼女の時間がまだ動いている証拠なのだから。


「これからどうすれば良いの? 今ある樹には、皆守りが付いているの。私は何処へ行けばいいの?」

橙はすがるように私を見つめたけれど、私は何も言う事が出来なかった。
一度だけ、宿を無くしてしまった妖精を見たことがある。彼の宿は橙では無かったけれど、樹が朽ちてしまった後彼の時間はだんだん遅くなっていって最期は風化して消えてしまった。私もいつかああやって消えてしまうのかと怖くてたまらなかったのを覚えている。

「貴方は何か、聞いていないの? 貴方の居た所は、他のダイダイが沢山いたでしょう?」

「時々、ふっと居なくなってしまった事があったけれど、皆しばらく経つと戻ってきた。けれど、皆と私は生まれた所が違うもの。」

彼女の樹は、果樹園の近くにあるのだといつか言っていた。けれど、果樹園の樹ではないから実が繰り越す事が多いのだと。中々巣立ってくれなくて困っているの、と彼女は微笑みながら話していた。
果樹園に住む妖精たちは、どうやってもう一度時間を取り戻したのだろう。
私の考えが合っているのなら、もしからしたら橙の時間を戻すことができるかもしれない。もしかしたら……。

「ねえダイダイ、試したい事があるの」

上手くいく保証なんて一つもないけれど、このまま私と同じように時間が止まって消えてしまうのを待つよりはずっといい。
橙は暇を見つけては私に会いに来てくれる、数少ない友人の中の一人なのだから。
とりわけ皆が渡ってしまう長い冬の間、白で覆われた世界に彼女が色をつける時嬉しさでいっぱいになる。

「貴方に案内したい所があるのだけれど、行ってくれるかしら?」

橙はこくりと頷いた。
私は此処から動くことができないと、彼女は知っていたから私が指で示した方向へ彼女は独りで歩いて行った。
案内したのは、初夏が教えてくれた時間の止まった橙の樹。
橙の樹は、祠のすぐ近くにあった。橙色の実をつけたまま止まった時間の中で静かに立っている。
祠の時間が止まった時に、巻きこんでしまった樹。

彼女がこの後どうなるのか、私が知る事は出来ない。
果樹園の橙達が時間を取り戻したのは、植えられたばかりの誰も守っていない樹を守るようになったから。
宿主の居ない樹を守る事で時間を取り戻すことが出来る、という私の考えがあっていれば彼女の時間はこれからも続くだろう。
樹と彼女の時間が同調するまでの間、彼女は動くことが出来ないだろうから、私が彼女に会うことはしばらくない。いや、二度と……? 
ここ最近の祠の風化はいままでにない速さになっている。いつまで祠が持ちこたえられるか解らない。彼女があの樹に留まる事が出来れば、私の役目を任せることも出来るかしら。
此処を通る方々の質問の受け答え。
初夏のささやかな話し相手。
そうね、誰にでも務まるもの。私じゃ無くたって……

彼女が歩いて行った方へ顔を向けると、橙の枝が見える。
あの枝になる橙はもうずっと橙色のままだ。時間が止まってしまっているから。
樹の時間が動き出すと、あの橙もじきに緑へと変わるのでしょう。
その時私は居るのでしょうか。

瑠璃色の髪をなびかせて、風の子たちが駆けて行く。
祠がだんだん風化する。
消えてしまう。
嗚呼、私の祠……

私の役目は答える事。時間の止まった此処から先への通行を認める答え。
そろそろ次の方が来る。飴色の髪をゆったりと縛って、緑に黄金を加えるために。

‘夏はもう行ったか'

此処は、もうずっと時間が止まっている。
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カテゴリ: 短編いろいろ

テーマ: 短編小説 - ジャンル: 小説・文学

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カウントダウン 

こんばんは。

今日は塾で模試を受けてきました。

センター試験を直ぐに印刷して、模試として受けることができる。

幸せなものです。

お金は払っているのですがね(笑)


最近はどうも、感覚がおかしい。

ネジが数本緩んでいるようです(笑)

机やパソコンに向かっている事が多いので、立ち止まって景色を見たりすることが減りました。

だからかな、塾から帰ってきて家に入る前にふと扉の前で立ち止まって夜空を見上げると、

どうしたもんだかうるっとしてしまうんですよね(笑)

なんだか涙が出てきて、綺麗だなーと思って、幸せだなーと思って、

地球は素敵な星だなとか、生きてて良かったなとか、良くわからない事を考えてしまう。



空を見るのが好きです、最近は。

何にもしないで、ぽかーんと空を見つめる。

心が洗われますよ(笑)

北海道の空、綺麗ですよ。



それから最近はいつの間にか、カウントダウンをしている。

試験へのカウントダウンでもするのかな、と思いきや。

あと何度この声を聴けるだろう、とか

あと何度この人の笑っている顔がみれるだろう、とか

そんなこと。

病んでる……? 

のかな、そうなのかな? これってまずいのかな?

少々不安です(笑)




追記より、良くわからない短編小説です。
-- 続きを読む --

カテゴリ: 短編いろいろ

テーマ: あれこれ - ジャンル: 学問・文化・芸術

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チュプとカロルとサーカスと 

お久しぶりです、こんばんは。

……ふう。

全く予定通り進んでいなくて、実は予約記事も作ることが出来ていなくて、こんなはずじゃなかった! と思っております……。

いつの間にか定期更新どころじゃ無くなっていました。

勉強の方はと言いますと、こちらも中々崖っぷちでして(汗)

学年末テストが終わってから謎の脱力感(やる気がぁ~)に襲われております。

気を引き締めなければっ!



で、何か終わった事があるのかと言いますと、ここ最近ずっと書いていた短編が書き終わりました!

八少女夕さんの企画、scriviamo!の方へ出させていただこうと書いていたものです。

締め切りはとっくに過ぎてしまっているのです。

ただ、事前に申し出た場合は待って下さるとのことでしたので、御言葉に甘えさせて頂いて……(それでも遅すぎるけれど)


舞台は北海道。3月の上旬頃をイメージして書いたものです。

初めて現実を舞台にしました(笑)

では、お楽しみいただけると幸いです。






jj.png


stella white12



『チュプとカロルとサーカスと』

冬の風はとても冷たい。冷気を伴った風が肌を突き刺す。頬が紅潮し、目からは自然と涙があふれる。マイナス10℃を優に下回る世界で大気が肌に触れた時、その体感温度はさらに低くなる。

 海はなおさらだ。

 野付半島は、北海道別海町に位置する日本最大の‘砂嘴'である。シベリアのアムール川河口付近で生まれた流氷が、はるばる旅して野付半島まで足を運ぶ。大鷲が上昇気流に乗り空を優雅に飛翔する。からりと晴れた大空に、よく通る声が響き渡った。
「おーい、チュプ!」
澄んだ空気を震わせて遠くまで響く声。その声に反応する影はない。
再び呼び声が辺りに木霊しようとした時、チョプは氷の下から・・・・・顔をのぞかせた。
「また君か、カロル」
氷と氷の隙間から顔だけを出して、自分を見下ろすカロルを一瞥する。嫌そうなチュプの顔を見て、カロルは満足げに微笑んだ。
 チュプは3歳のゴマフアザラシである。『チュプ』というのはアイヌの言葉で『太陽』の意味をもつ。彼の母親がつけたもので、彼のお気に入りの名前だ。そして彼を流氷の上から見下ろすカロルは、5歳のレイブン――ワタリガラスである。
 ワタリガラスはユーラシア大陸全域、それから北米大陸に生息する大型のカラスの名称だ。日本では、北海道北東部に冬の間だけ渡ってくる、渡り鳥である。旅人は今年も例外なく、この北の大地へ渡ってきていた。

***

「君みたいな奴はなかなかいないよ」
唐突にチョプが言った。ワタリガラスにとって、アザラシのチュプは只の御馳走でしかない。筈なのに、暇つぶしとは言え世間話をする為だけに近づいてくるカロルに、チュプは少なからず不信感を抱いていた。
「お前は旨そうだからな、チュプ。朽ちるまで待っているのさ」
わざとらしく怖い顔を作って、カロルは低い声で言う。一度顔をしかめたチュプは、抑揚のない声で返事をした。
「そりゃ御丁寧にありがとうございます」
お辞儀の真似をすると、鼻先が海水に浸かった。
 喰う者と、喰われる者。自分達のおかれた立場を二人はよく理解している。弱肉強食の世の中で、双方に生まれた絆は、彼らの生死を左右する事もあるのだ。だからこその、ギリギリのジョーク。それは信頼の証でもあった。
 ひとしきり笑って、カロルが急に真面目な顔を作る。その事に気がついたチュプも、黙ってカロルを見上げた。丸く黒い瞳が、太陽の光を映して煌めく。
「変わり者が悪いとは限らないさ」
お前もそう思うだろ? カロルがチュプの顔を窺う。
「まあ、その通りだね。それに、君と話している私も、十分変わり者だろうさ」
言って辺りを見回す。彼らの周囲に他のアザラシはいない。ワタリガラスも、シロカモメも、オジロワシもいない。敬遠しているのか、はたまた偶然なのか。上昇気流に乗った大鷲が、澄んだ青い大空を優雅に旋回しているばかりだ。
「楽しく生きりゃ、良いんだよ」
楽しく。独りごとの様に呟いて、カロルは一度翼を大きく羽ばたいた。翼開長は優に一メートルを上回る。およそ、1.3メートルほどだろう。大きな翼が、しなやかに風を送った。
「君の発想はつくづく呆れるね」
得意げに笑うカロルを見て、チュプが大きくため息をつく。その瞳は嬉しさを灯していた。

 冷たい風が吹き、海面で波紋が踊る。流れてきた流氷を避けて、チュプが一度海へ潜った。残されたカロルは空を見上げ、太陽の光に目を細める。それから、再びチュプが顔を出すまで待つ。チュプの鼻先を海面に確認したカロルは、水面に顔を近づけてまた話し始めた。
「聴いてくれよ、次の旅で是非見に行きたいところがあるんだ」
「また何か集めるのかい?」
何? 光るもの? 半ばからかいながらチュプが訊ねる。慣れた様子でカロルが無視をした。陸を知らない海の友人に、冬まで溜めていた世界の話を、事細かに説明するのだ。そのおかげで、チュプは他のアザラシたちの中でも物知りの方だった。
「サーカスさ」
 得意そうに、胸を張ってカロルが言う。初めて聞く言葉に、チュプは首を傾げた。
「へえ、何だいそれは?」
「何にも知らないなチュプは」
好奇の目で見上げるチュプを見て、知っていたら面白くないんだけどよ、とカポンと笑う。ワタリガラスの特徴的な鳴き声の一つだ。留鳥達のカァカァと言う鳴き声とは違う、小馬鹿にしたような声である。
「サーカスは、俺も渡り仲間に聞いた話なんだが、団員達が観客に見世物をするところらしい。えらくアクロバチックな芸当をしたりしてね」
「意気込んだ割にずいぶん抽象的じゃないか」
「俺も見たことがないんだ。知りたかったら見てこいよ」
「是非海の中で公演していただきたいものだね」
今から説明するから、拗ねるなよ。悪びれる様子もなく笑って言う。
「アイツが見たっていうサーカスは、どうやらサーカスには色々種類があるようだが、確か‘チルクス・ノッテ’と言う団名だったな。なんでも、ライオンが凄いらしいんだ」
『チルクス・ノッテ』というのは、イタリアを拠点に活動するサーカス団の事だ。次々と展開される多様多種な演目は、観客を飽きさせる事を知らない。移動式のテントは、いつも満員御礼となっていた。
 ライオンか、と呟いてチュプがさも愉快そうに笑う。幼少期、ネコに襲われた事のあるカロルにとって、ライオンは恐怖の対象だった。もちろん、チュプもその事をカロルから聞いている。
「君は一度食べられて頭を冷やした方が良い」
「おいおい、冗談きついぜチュプ」
苦々しくカロルが呟いた。

***

「『空中ブランコ』って言うのが、ライアンのお気に入りらしい」
ライアンっていうのは、渡り仲間の名前なんだけどよ。と付け足す。
「普通のブランコとは違うのかい? 海辺の公園にもひとつある」
一度、ブランコを陸に見つけたチュプが、あれは何かと訊ねた事がある。気軽に鳥になれる人間の遊び道具、とカロルは答えていた。
「いやいや、そんなちっぽけなのと比べちゃ駄目だ。なんて言ってもスケールが違う」
海辺のブランコがハギマシコなら、空中ブランコはさながらオオワシか。
どうして知っているんだい? チュプが聞くと、カロルはしれっと答えた。「ライアンの再現飛行さ」
「人間はやっぱり空を飛びたいんだな」
自分で頷きながら、大空を仰ぐ。「自由を求めているんだきっと」旋回するオオワシを上目に見て独りごとの様に呟く。
「そう……かな」
言ってから少し考えて、チュプが呟いた。私も、空を飛べる君たちがうらやましくなる時があるよ。チュプが遠くの空を飛ぶシロカモメを見つめる。それに気がついたカロルは、笑みをこぼした。
「俺も、海の世界へ行ってみたい時がある」
「持っていないものは無性に欲しくなるんだね。お互い」
「人間も同じかもな」言ってすぐに、いや待てよ、と言葉を切る。チュプが小首を傾げて見つめる。
「ライアンが空中ブランコを気にいった理由を思い出した。ブランコに乗っている人間の少女が、回数を重ねるたびに少しずつ上達するんだって。それを見るのが、面白いんだってよ」
それは、凄く努力家だね。チュプが黒目がちの瞳を丸く開き頬を緩めた。
「人間は、持っていないものを自分のものにする強欲さを持ってる」
カロルは自分の出した結論に満足したようだった。

 それから、サーカスの話は続く。綱渡りの話までした時、チュプがふと疑問を口にした。
「君の友人は、‘人間たちの娯楽施設'へどうやって入ったんだい?」
あれ、言ってなかったか。カロルは忘れていたよと呟いて、面白い秘密を教えてやる、と悪戯に笑みを浮かべる。
「俺たちワタリガラスは、人間の中に紛れ込む事が出来るんだ」
「魔法でも使うのかい?」
チュプが不思議そうに首を傾ける。
「欺くんだ。同族だと思わせる。一度道を尋ねられた事があるから、彼らには俺たちワタリガラスがちゃんと人間に見えているらしい」
「それで君は、話しかけられてどうしたの?」
「聞こえなかったことにしたよ」
言って、ニヤリと笑う。やっぱりそうなるんだ。チュプがため息交じりに呟くと、仕方がないだろ、と言い訳をした。
「結局、カラスはカラスなんだ。見た目は人間だとしても、彼らの言葉を話す事は出来ない」
「カラスだって気付かれることは無いんだね」
「俺は気付かれた奴の話を聞いたことが無いな。ライアンも、サーカスを見た年から一年間は、渡りを止めて、サーカスの常連客になったくらいだから」
「変な奴」
「そう、変なやつさ。とびきりな。だから、俺はこいつ・・・がなかなかに好きなんだ」
カロルが、『こいつ』と言ったことに違和感を覚え、チュプは眉をひそめた。難しい顔をするチュプを見て、カロルは口をほころばせて「後ろを見ろよ」と促す。訝しげに振り返った先には、カロルより一回りほど大きい、一羽のワタリガラスがちょうど優雅に降り立ったところだった。
「やあ、チュプ。僕はライアン。君の事は、いつもカロルから聞いているよ」
流氷をぴょんぴょん飛びながら近づいてくる。チュプが海へ潜ろうと鼻先を沈める。ワタリガラスが生きているアザラシを食べることは無い。それでも、アザラシの死肉を好物とする彼らを、チュプは良く思っていなかった。気が付いたカロルは、こいつは俺と同じような奴だと思って良い、と声をかける。わずかに眉をひそめたチュプは、海面に目だけを残して身を沈める。警戒している二つの眼を、親しげに見つめる彼は、カロルと同じ5歳のワタリガラスだ。友人を出迎えるカロルを横目に見て、チュプがぼそりと呟いた。
「変な奴」

***

「本当は君と話をしたかったけど」
残念そうに言って、ライアンは後ろをチラリと見る。チュプがそれに続く。視線の先には、一羽の雌のワタリガラスがいた。流氷の上から、海を覗き込んでいる。チュプが反射的に鼻先まで潜った。それを見ていた二羽の捕食者が笑う。彼女は、とライアンが言った。
「僕の妻になる方だ」
「ライアンは彼女にお熱なんだ」
カロルがニヤリと笑ってライアンを見る。ライアンも照れつつ、嬉しそうに笑う。
「そう言うことなんだ。じゃあな、チュプ。また逢う日まで」
翼開長は1.4メートルほどの大きな翼を羽ばたかせ、ライアンが大空へ飛翔する。途中で彼の恋人が合流し、二人はじゃれ合いながら空を旋回した。ワタリガラスは生涯、同じ相手と過ごすと言われている。
「お幸せに」
誰に言うでもなく、チュプが独り呟いた。

***

 じゃれあいながら飛ぶ恋人たちは、遠くの空へ消えてしまった。群れの元へ戻るのだろうか。どちらにせよ、此の辺りから離れる事はないだろう。時折甘えた鳴き声が響く。次の渡り――春の訪れまで、彼らは野付周辺に滞在する。
「雪だ……」
ふいにカロルが口を開いた。綺麗な結晶になっている、大粒の雪が舞い降りる。はじめ、チュプの鼻先に降り立ったそれは、いつしかあちらこちらで踊っていた。見上げると、青かった空もいつの間にか灰色である。
「この時期の雪は、春を必死で押し戻しているみたいだ」
「それは、面白い発想だね」
口元を綻ばせてチュプが言うと「そうか?」と首を傾げた。それから空を見上げて呟く。この時期の雪を見ると、いつも思うよ。
「雪は嫌いじゃないけど、降っているよりは晴れの方が良い」
恨めしそうに雪を見るカロルに、飛べないのかい、とチュプが聞く。
「飛べるさ。でも、晴れているときの方が、気持ちがいいだろ?」
私はよく解らないや。ほんの少し悲しげにチュプが笑った。
「気持ちが良いんだよ。泳ぐときでも、そう言う時があるだろ?」
考える素振りを見せるチュプに、だろ? と再度問いかけようとした時、チュプの顔が何かを思い出したように明るくなった。
「私は夏の干潟の方が好きだ」
チュプの様なゴマフアザラシは、流氷と共に着て、流氷と共に去るものが多い。しかし、野付半島は、例外的に夏の間も定住するゴマフアザラシが多かった。野付湾には、シャチやキツネなどが立ち入ることのできない『陸地から離れた浅瀬』が多く存在するのが主な理由だという。思い出しているのか目を細めるチュプに、カロルが呆れた表情を向けた。
「お前の様な奴を怠け者というんだ」

 東の空は、すでに暗くなり始めていた。ぽつりとカロルが呟く。
「そろそろ日も暮れるか」
「戻るのかい?」
チュプも、東の空を見つめて問いかけた。留鳥であるハシボソガラスの群れが、シルエットとして空に浮かぶ。皆、住処へ帰るのだ。響いて聞こえてくる彼らの声を聴きながら、残念そうにカロルが応じた。
「そうだな、俺も帰るよ。また明日来る」
「来なくていいのに」
即答するチュプを見て、不敵に笑って言う。
「そうか? まあ、検討しておくよ」
「気をつけて帰るんだよ、カロル」
鳥目なんだから、と皮肉をこめて微笑む。お前は保護者か、とやにわに作った不貞腐れた顔は、すぐにいつものにやけた顔に戻った。
「任せとけ。また明日な、チュプ」
「また明日、カロル」
助走をつけ飛び立ったカロルは、すぐに長い翼を大きく羽ばたいて飛翔する。ワタリガラスは留鳥のカラス達とは異なり、上空を滑空することが出来る。チュプはその姿を、目を細めて見送る。
 猛禽達とさほど違わない美しいシルエットが西の空へ消えた。

***

「おーい、チュプ!」
4月半ばの早朝。まだ少しだけ冷たさを伴う暖かな風に乗って、カロルの声が木霊した。暫くしてチュプが海面に顔を出す。それを確認したカロルは、上空から舞い降りて海に浮かぶ流木へ乗った。チュプも流木の方へ泳いでいく。
「やあ。おはよう、カロル」
さざ波の唄に遮られないよう、チュプは声を張り上げる。流氷は、一週間前に太平洋へ去って行ってしまった。カロルも同じように、よく響く声を張り上げた。
「おはよう、チュプ。良い朝だ」
かすみががった空は青く、転々と積雲が浮かんでいる。チュプが空を見上げて、その通りだねと同意した。
「そろそろ……かな?」
ここ最近、カロルたちワタリガラスは食糧を探すのに勤しんでいた。久々にチュプの前に顔を出したカロルに、チュプは疑問を問いかける。気候の大きな変化から、それは容易に想像できる疑問だった。珍しく真面目な面持ちでカロルは頷く。
「ああ、今日発つんだ。行く前に報告しておこうと思ってよ」
「そうか、この後行くんだね」
そうか、と目を閉じる。さざ波が歌う。再び目が開かれた時、チュプの瞳に映ったのは、いつも通りのにやけた顔だった。
「食われるなよ」
「君こそ、のたれ死なないようにね」
お前は俺が食べるんだから。愉快そうに笑うカロルを、チュプはものともせずに一蹴する。言った後に、チュプも自然と笑みが漏れた。
「また来年、この世で会おうな」
「うん、また来年、この世で」
生き抜く事さえも難しい自然の中で、捕食者と被食者は再会を誓う。瞳の奥には優しさがあふれていた。
「じゃあなチュプ」
「気をつけて」
バランスを崩すことなく、上手に流木を蹴って、飛翔する。すぐに上昇気流を捕まえたカロルは、一度優しい声で鳴くと、群れの元へ去って行った。そのシルエットが点になるまで見送ったチュプは、おもむろに空を仰ぐ。昇って来た太陽を見つめた瞳は、眩しさを感じて細くなった。「また来年、か」独り呟いたチュプは、海の世界へと去っていった。水飛沫が太陽にきらめく。
 残された流木は、ただひたすらに揺れていた。
 

(2014/3/25 Sky)
(4/10改正)
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フネにて記す 

日時設定を間違って広告が出てしまった! 不覚!!


こんばんは。

さて、9月ですね!!



夏も終わりにさしかかっていると言う頃でしょうか!


受験勉強は、今が一番大変な時でしょうか。

志望校の判定は、あがっているはずです!(あがっている事を願っています 笑)

あがっていなくては、流石に困りますから。



さて、9月の記事は、短編小説です。


本当は、載せるつもりは無かったのですが、一応小説ブログですので、一年載せないのもどうだろう。

等色々考えて載せることにしました。

それでは、下記から




『フネにて記す』

3086年13月8日SAT

見渡す限りの草原を、私は走っていた。
何処までも続く草原を、私は走っていた。
空を入道雲が流れ、地面に影が映る。
気持ちの良い風が吹き、私は両手を広げる。
そこで、ふと気がつく。

――私の足は、いつか動いたことがあったろうか


思った瞬間に私の足は動かなくなった。
その場にどうと崩れる私の身体に対して、私は対抗する術を持たなかった。
うつ伏せに倒れ、思わず草を握る。
右手で握った生命は、やがて命を持たない布へと姿を変えた。
私は寝台に仰向けに寝ていた。

先程まで草原を走っていた私は、足の不自由な砂漠の老人であった。

どうやら夢を見て居たようだった。
土の枠の向こう側に太陽が昇るのを見た。
家族のものは皆、日の出前に出かけてしまったようだ。
机の上に、冷めきったスープが置いてあるのが見える。
遮る物の無い窓から入り込んでくる砂が、スープに浮かんでいる事は容易に想像が出来た。
窓の向こう側に、葉に褐色の混ざる木々が転々と見える。
先程見た夢の内容を、今日はしっかりと覚えていた。
夢について、暫し思考することにする。

夢の内容は私が草原を走っているものであったが、実は私は草原を見たことが一度も無かった。
此の動かぬ足で、周りの者に支えられて生きてきた長い期間、私は一度もこの村を出た事が無いのである。
しかし夢の中の私は、私が見るその風景を‘草原'であると判断した。
褐色が混ざる事のない、碧と形容しても否では無いそれらの風景を。
若者の中で、遠い地へ出向いてこの星にはもう多くない‘自然に出来がった'草原を見た者が、私に説明をしてくれたことが原因だろうか。
話を聴いている時に、私は話の中の草原を無意識のうちに想像していたのかも知れない。
それならば、私は夢の中の風景――私が想像で創り上げた風景を'草原’であるのだと思い込んでいるだけなのであろうか。
そしてそれは、実際とは異なるものなのだろうか。
その可能性は大いにあるだろう。いや、その可能性の方が強いと言って良い。一度も見たことが無いのだから、夢の中の草原は脳が想像した事にすぎない。そして、想像は必ずしも一致しない。これは私が生きてきた長い期間で何度か確かめた事だ。
しかし、私が実際の草原と想像の草原を見比べることは恐らく出来ないだろう。
これから先もずっと、今まで同様にこの村を出ることは無いのだから。

では歩く感覚は?
私の足は生来動いたことが無い。腰から下が麻痺しているか何かだろう。地面についた足からは、微弱な振動しか伝わってこない。何しろこの村からは出た事がないから、大きな病院にかかった事は無いのだが、この身体と何十年の長い付き合いだ。これからも動くことは無いだろうということは何も言われなくても解るものだ。
しかし、それならば何故夢の中で、此の足は地面を捉えただろう。
何故此の足は地面を捉え、上へ伸びる草花を踏み締め、前進することができただろう。
そうだ、そもそも草を捉えるその感触を、私は何処で得ただろう。
これも脳による全くの想像なのだろうか。微弱な反応だけを頼りに、無意識の想像によって創られた感覚。
それならば、これも実際の感覚とは異なるのだろう。

全ては想像を元に反映されるのが夢なのであろうか。無意識の願望が反映されるのだとも聞いた事がある。
それならば、私は草原へ行きたいのか。
草原の中で、普段は動く事の無い足をめいっぱい動かして草原を駆け回りたいのか。
そうかもしれない。しかし、この世界で自然の草原を見つけることがいかに大変なのか、私は知っている。
何処か懐かしささえ感じる美しい風景を創りだす色彩、青々と茂る草が裸足の足をくすぐる感触は、夢の中であれ忘れることはないだろう。

遠くで砂塵が舞い、そのうちの少量が窓から迷い込んだ。
家族が皆出払った此の時間、世界は私只一人の様に思えた。
村の端に位置するこの家の、周囲を通る人はほとんどいなかったのだから。
かつて恐ろしいと感じたこの雰囲気は、今では心地よいとさえ感じていた。
太陽は空の頂点へ昇りつつある。この地は一年を通して安定した過ごしやすい気温であるが、太陽が陰ると大幅に気温が下がる。

さて、私も食事にしよう。





老人は、分厚い日記帳に書いた文章を満足げに読み返すと、愛おしそうに胸に抱き、ゆっくりと閉じた。
それから、すっかり砂にまみれたスープを美味しそうに飲んだ。
机に置かれた日記帳の上を、砂を纏った風が走り数枚ページを捲る。
茶色の砂の世界に、白い紙だけが光り輝いていた。


***


病院の集中治療室で、少年は目を覚ました。
交差点で大型トラックにはねられた少年は、奇跡的に一命を取り留めたが、実に七日の間昏睡状態となっていた。
一般病棟へ移された少年は、分厚いノートを机に広げた。
それは日記帳で、日記をつけることは彼の幼いころからの日課となっている。
デジタル化が進み人々が文字を書かなくなった世界で、鉛筆を使って文字を書くことは彼のこだわりだった。
新しいページを開き、徐に文字を書き綴る――


2653年2月5日 THU

夢を見た。夢の中で僕は、砂漠に住む一人のおじいさんだった。
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初夏の旅人リメイク(?) 

こんばんは。

もう2年ほど前のことになりますが、このブログで「初夏の旅人」という小説をアップしました。

それをサークルの文芸会に出すのに、少しだけ追記しました。


追記にて掲載しますので、もし良ければお暇な時にでも(^^)/




「初夏の旅人」を書いた後、作中のキャラクターから妄想が膨らみ膨らんで、かなり沢山のキャラクターとストーリーが生まれました。

そのお話のほうも、いつか放出していきたいなぁ……


そのうちのキャラクターの一人、盛秋のイラストを今日は載せてみます。

ペンタブでお絵かき。このテイストの絵は、このブログでは余り載せていなかったのですが……

盛秋 (2)





背景とか無い。。。よ。


いつか彼の話も書きたいです。

ではまた、良い夢を
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『渦の中の蒼い瓶』 

『渦の中の蒼い瓶』


どこかで生きているあなたが、幸せでありますように。

あなたの前に広がる新しい世界が、あなたにとって光り輝くものでありますように。

もしあなたがどこかでこの瓶を手にとって、わたしのことを少しでも思い出すことがあるのなら、


わたしのことを、許してくれますように。


***


「ねえ、こんな遅くまで、何を書いている訳?」

――ごめん、眩しかったかな? 起こしちゃったね

「明るいのは別にいいんだけどさ。あんた最近ずっと睡眠不足なんだから、早く寝なよ」

――そうだね、ありがと

「そんなに一生懸命、何を書いてるの? ラブレター? 誰に?

もう何枚も書き直してるじゃん。ズバリ重要な書類ですな?」


――ラブレターなんて洒落たもの書くように見える? 違います

「じゃあ誰に?」

――誰でもいいじゃない

「良くないよ。あたしの睡眠時間を奪った罰」

――それを言われちゃうとね……。ちょっとだけだよ

「なにこれ、詩?」

――さあね。返して

「その瓶に入れて流すわけ?」

――そうですけど! わたしの勝手じゃない

「ふーん、直接渡せばいいのに」

――直接渡せないからこうするの!

「やっぱり手紙なんだ」

――……

「瓶を流すなんて、洒落たことしちゃって」

――……もうだいぶ前のコトなんだけどね。消息不明になった友達がいてさ。ああ、別に事件とかじゃないんだけど。

「その子への手紙なの?」

――うん、そう。当時ね、彼女の力になりたくて続けていたことがあるんだけど

――それは彼女にとって負担だったかも知れない。わからないけどさ

それを考えると、胸が押しつぶされそうで。苦しい。

出来ることなら戻りたい。

――謝りたい。けど、もう叶わないんだね。だから

「瓶に入れて流すんだ」

――自己満足だって、笑うでしょ

「そうだね、自己満足かもね。でも、あたしが口を出すようなことじゃないや」

――流れの向こうに、彼女がいるといいな

「いたらいいね」

――ね。ごめんね、起こしちゃって。わたしももう寝るわ

「あ、そう? じゃあ、あたしも寝よう。おやすみね」

――ん、おやすみ


***


どこかで生きているあなたが、幸せでありますように。

あなたの前に広がる新しい世界が、あなたにとって光り輝くものでありますように。

ごめん

ありがとう

また、どこかで


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なりそこないの唄 


こんばんは。

テスト終わりました! やったね!

新作です。短編です。出来立てほやほやです(でも載せちゃう)

今日(29日)の18時からの文芸会に提出するために書いたもの。

ネタが降りてくるまでずっとパソコンの前に座っていたのですが、全然決まらず……

結局昼を過ぎてから泡を食って書き始めました……


初夏の旅人やらと、同じ系列のお話です。


お楽しみいただけたら、幸いです




BGMに聞いていた曲。
曲名はあんまり関係ないですが、雰囲気はこんな感じのイメージだったり……

※問題等ございましたらご連絡下さい



20120907215857248_201604291510463fa.jpg


『なりそこないの唄』

 彼女と僕は突然旅をすることになった。

 出会ったのは森の中に開けた広場で、僕らの他に影は無かった。鬱蒼と樹々が茂る森の中では、そこだけがぽっかりと穴が開いたようで、秋の夕暮れの柔らかい日差しが差し込んでいた。迷い込んだ広場の中央に、彼女はただ一人佇んでいた。
 いつから此処にいたのだろう、数刻前に降った雨のためか、腰までもある髪はつややかに濡れている。栗色で始まる髪は、毛先に行くにつれて黄金色へ変化する。軽くウェーブした髪は今まで見たどんな髪よりも、美しいと思った。
「誰?」
僕が見ていることに気が付いたのだろう。彼女がこちらに顔を向ける。当然のように色白の小さな顔。淡い青色の大きな瞳に、長い黄金色のまつ毛。くるりとカールした毛先には、水滴が光っていた。
 声をかける言葉を探るうちに、沈黙が訪れてしまう。そのうち、何も言わない僕を不安そうに見つめて、彼女が小さな声で言葉を紡いだ。
「ごめんなさい」
大きな瞳から、大粒の涙が一粒はらりと落ちる。涙は地面に落ちて、花に溶けて消えた。花がくすぐったそうに揺れる。
「泣いていたの?」
「ええ、ごめんなさい」
ごめんなさい。そういって、彼女は僕に頭を下げた。生成りの麻のワンピースに、水滴が落ちる。ぎゅっときつく結んだ小さな拳が、小刻みに震えていた。瞳に涙を浮かべた彼女を、それでも美しいと思ってしまう。
「謝ることはないよ。僕は君に何もされていない」
「あなたは、私に伝えに来たのではないの?」
「何があったのかは知らないけれど、それは僕じゃない」
 僕が言うと、彼女は少し安心したようにほっと息をついた。指先で涙を拭って、しっかりと僕を見つめる。吸い込まれるような瞳に見つめられて、ドキリとする。柔らかそうな、朱色の唇がゆっくりと動いた。
「そう……。私はここで裁きを待っているの」
「裁き?」
「歌えない花守は必要ない。だから……」
私は裁かれるの。呟くように紡がれる言葉は、樹々のざわめきの中に消えて行った。俯く彼女に、影が落ちる。
 「花守? 君が?」
「ええ。なりそこないの、ね」
なるほど、此処は花守たちの森だったのか。それなのに彼女は、唄を歌えないのか。
 花守は唄を歌うことで、花に精気を与える役目を担っている。だから、歌えない花守は、大地の法に裁かれてしまうのだろう。
 こんなにも美しい彼女が?
「……裁きが下ると、どうなるの?」
「きっと、消えてしまうわ。皆がそうであるように」
仕方がないものね。彼女は諦めた顔で、薄く笑みを浮かべた。
 消えてしまう。こんなに美しい彼女が消えてしまうなんて、僕には耐えられない。そう思った時、するりと言葉が抜け出た。
「ねえ、逃げようよ」
「……逃げる?」
「今歌えないならば、これから歌えるようになればいい。そうしたら、此処へまた戻ってくればいい」
彼女が歌えるようになるのかは、わからなかった。自然の摂理は、抗ってはいけないと定められたもの。理解してはいたが、そんなことの一つや二つはもう気にならなかった。
 言葉に力がこもって、気が付くと彼女へ手を差し出していた。パラパラと広場に雨が降り始めた。空に雲は無かった。
 彼女は、差し出された手をすぐに握ることはしなかった。けれど、迷っているようでじっと考え込んでいた。
 雨はだんだんと強くなって、広場の草木は濡れそぼちた。空に雲は無かった。
 僕と彼女だけは、濡れずに立っていた。
「裁きから逃げたら――」
「どうなるの?」
「わからない。逃げた時のことなんて、考えたことも無かったのよ」
「じゃあ、逃げようよ。大丈夫、僕が守ってあげる。ほら」
「だって、歌えない花守は……!」
「歌えるようになればいいだろう? さあ、行くよ!」

 僕は彼女の手を引いて、無我夢中で走った。歌えない花守の逃走を、森の樹々は怒っているようだった。彼らの声は僕にはよく分からなかったが、彼女には伝わっているらしい。美しい顔がくしゃりと歪んで、悲しみに覆いつくされる。それでも、彼女は走るのやめなかった。 
 日が完全に落ちてしまう前に、彼女と一緒に森を抜け出た。辺りは土砂降りで、森の前の小川は、溢れて海になっていた。
 空に雲は無かった。
「どこに行くの?」
海沿いの小道は月明かりで照らされていた。前を歩く僕に、彼女は息を切らせて聞く。花守として育ってきた彼女は、あまり走ったことがないのだろう。麻のワンピースは乱れていて、裸足の足は傷だらけだった。小さな白い足に、痛々しく赤が映える。ごめんなさい、と心の中で謝る。彼女は濡れていなかったのだけが、唯一僕の救いとなった。
 僕も息を切らせて、彼女の問いに答える。
「どこにいこうか。僕らに戻る道はないからね」
「ごめんなさい」
「謝るのは、もう無しだよ。それに、もとより僕は前に進むしかないんだ」
「本当に、ご一緒しても良いの?」
「もちろん。僕が言い出したんだからね」
 彼女はもう裁きの話はせず、僕の手を握ってついてきた。大勢の旅人たちに踏み固められた小道は、森の中の獣道よりはよっぽど歩きやすかった。彼女もそうだったようで、道が大きくなってからは、僕の隣を歩くようになった。
 ぽつぽつと彼女が話をする。僕が相槌を打つと、嬉しそうに笑った。美しい瞳は月明かりに照らされて輝いた。黄金色の髪が潮風に靡く。栗色だったところも、もうずいぶんと黄金色に近づいてきたようだった。雨はしとしと降っていて、星は夜空で輝いていて、僕らは濡れていなかった。
 
 僕らはずっと歩き続けた。花守は雨を嫌うために、深い森の奥にいるのだとかつて聞いたことがあった。それが本当かはわからないけれど、雨が降りしきる中で、花守の使いが追ってくることは無かった。
 東の空が白み始めたころ、遠くにポツンと灯りが見えた。それは僕がよく知っている家で、家の主は、僕がただ一人信頼できる他人だった。
 もう彼女には隠しておくことは出来ないな。隣を歩く彼女を見つめる。美しい横顔は整っていて、今は笑顔に溢れている。僕のためだけの笑顔。
 さあ、話さなくちゃ。
「ねえ」
「なあに?」
僕の問いかけに、彼女は首をかしげてこちらを見る。もう少し明るければ、彼女の顔をもっとよく見ることが出来たのに。そんなことを考えながら、次の言葉を紡ぐ。僕の役目は、終わりに近づいていた。雨はもう霧雨になっていた。もう、これ以上集めることは出来なさそうだ。
「君は、あの家に行くんだ。あの家の主は、君が次にどうするべきなのかを教えてくれるよ」
「あなたは?」
「僕は、此処でお別れしなくちゃならないよ」
「どうして!」
 彼女は、僕の思ったいたよりも別れを悲しんでいるようだった。繋いだ彼女の手に、ぐっと力がこもるのが伝わってくる。そんなことをされると、別れが惜しくなってしまう。
 それでも、言わなくちゃ。雨はもう霧雨だ。
「あのね、僕は『雨』なんだ」
「雨……?」
彼女が不思議そうに聞いてくる。当たり前だ。雨の天候を司る精霊である『雨』が地上にいるのはおかしい。『雨』は雨を降らせて各地を渡り歩くものだから。
「詳しくは『雨』だった。『雨』でありながら、僕は雨を上手く操ることが出来なかった。だから」
だから。彼女は黙って僕が続きを話すのを待っていた。僕らはもう立ち止まっていて、繋いだ手はそのままに向き合っていた。彼女の空色の瞳が、僕に続きを促す。
「だから、僕は、裁きを待つしか無かった」
「そんな」
「なりそこないの『雨』は必要ないからね」
 裁き、という言葉を聞いたとき彼女の顔はさっと青ざめた。それでも、僕は構わず続きを話す。僕にはもう時間がない。
「それで、怖くなって逃げたんだ。ずっとさまよっていたら、森に迷い込んだ」
そして、君を見つけたんだよ。 
 彼女はずっと、僕の顔を見つめていた。きれいな瞳に見つめられて、恥ずかしくなって話すのが早くなる。太陽は徐々に顔を出しはじめた。僕の体の先は、もう霧になっているようだった。もう、時間がない。
「君に一目惚れだよ。可笑しいね、雨が花守に恋をするなんて」
笑っちゃうよね。そういって僕は笑ったけれど、彼女は笑わなかった。そして、ドキドキする僕の気持ちはお構いなしに、彼女はそっとキスをした。
 突然のことに驚いて、僕は声が上ずってしまう。
「花守は雨が嫌いなのは本当だったんだね。君を此処まで連れてくることが出来て、良かったよ。なりこそないの『雨』にも、好きな子を守ることは出来るんだって」
 なりそこないなりに、必死で雨を操った。彼女の為に操った。私情を許さない大地の法を破ってしまったけれど、彼女をここまで連れて来ることできたのだから、悔いはない。
 僕が誇らしげに言うと、彼女は微笑んだ。それから、僕の腰に両腕を回して、胸に顔を埋める。僕はもうドキドキが止まらなくて、なりそこないも悪くないと思う。
 心臓の鼓動が早くなるのを感じる。けれど、僕は最後の役目を果たさなくてはならない。彼女を、逃がさなくては。
「ほら、朝が来る。急がなくちゃ。僕は、このまま此処にいるよ。こんなに沢山雨を降らせてしまった。もうすぐ裁きが下る。君に見せたくは無いな」
言って、彼女の綺麗な髪に触れる。きっと、僕はこのまま消えてしまうのだろう。そうしたら、彼女は此処に独り取り残されてしまう。それは、彼女に申し訳なかった。
 彼女の髪は、もうすっかり黄金色だった。さらさらとなびく黄金色は、朝日を浴びて煌いた。
 僕の胸に顔を埋めていた彼女が、ゆっくりと顔を上げる。そして綺麗な朱色の唇から、一言だけ紡がれた。
「最期まであなたの傍にいるから」

 朝日が霧を照らして反射し、周囲は黄金色に輝いた。
 樹々はうんと伸びをして、花は微笑み、ダンスを踊っていた。
 黄金色の霧の中心にたった独り、花守の少女が座っていた。 

 広い大地に、草木に力を与える美しい『なりそこないの唄』が響き渡った。
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 洋服店のショーウィンドウの中では、煌びやかな衣装と共にネオンが光る。それが、大きなクリスマスツリーに飾られた金色のベルに映ってひと際輝いた。明日の夜には、恋人たちが写真を撮るために群れるのだろう。その光景を彼とともに眺めるのを想像して、笑みが漏れた。いつか言っていたように、人込みは苦手なんだって遠巻きに見ようとするのだろう。それを私が引っ張って……。
 うん、明日はここにも寄ろう。
 
 札幌駅の赤いオブジェに集合して、それから歩いてすぐの赤レンガテラスで食事をして、大通り公園でイルミネーションを見る。それが明日のデートプランだった。ミュンヘン・クリスマス市で買い物をしても良いし、せっかくだからテレビ塔にのぼるのも悪くない。他に寄りたいところがあったら、当日までに考えておいてよ。そんなやり取りをしたのが二日前。文字越しに彼の微笑みを想像して、寮のルームメイトにからかわれたのを思い出す。

 彼は札幌の中央区に住む社会人で、私は田舎出身の手稲の大学生。住む世界が違うような気がして、引け目を感じていたから、クリスマスの夜を空けてくれたのが本当に嬉しかったのだ。下見に行きたいので、今日の家事当番を代わって欲しいとルームメイトに頼むと、にやりと笑って送り出された。「これは貸しだからね」なんてことを言う。

 しばらく歩くと目の前にイルミネーションが広がった。青から白へ、波のように光が躍る。今年のテーマはなんだったろうか。遅くなってしまったために見物客はまばらで、ゆっくり眺めながら歩く。ミュンヘン・クリスマス市を覗くと、店はどこも閉まっていた。大学で予定を済ませてから来たのを後悔する。仕方なく、ログハウスの小窓から商品を眺めた。スノーマンやサンタクロースが所狭しと並ぶ。よく見ると、少しずつ表情が違うのだ。

 次のお店は……。移動しようと顔を上げた時、向こうからカップルが歩いて来るのが見えた。社会人のようで、会社帰りなのか二人ともスーツを着ていた。どこのブランドだっただろう、コートは彼とお揃いだ。社会人の間では流行っているのかも知れない。彼女のタイトスカートからのびる美脚は生足で、寒くないのかなと思う。閉店した市場は電灯が少なくて、あまり顔は見えない。それでも、スーツの似合う長身の彼らは、美男美女かな、なんて勝手に想像する。
近づいてくるにつれ、なんだか鉢合わせるのが恥ずかしくなって窓のほうへ向き直る。少しお酒が入っているのだろうか、彼女の大きな笑い声が閉店した市場に響く。なんとなく興味が湧いて、あるいは彼らの関係に憧れたのかもしれないが、窓越しに二人を見てやろうという気になった。段々雪を踏む音が近づいて来る。
 
 閉店した店の窓は、辺りをよく映す。ログハウスの小窓が写し取ったのは、美人の彼女の首に巻かれた見慣れたマフラーだった。体がキュッと強張る。彼女の笑い声に交じって、よく知った優しい声が聞こえた。
「寒くない?」
「うん。マフラー、ありがとね」
 
 振りむいた先に見えた後ろ姿は幸せそうで、おろした手はしっかりと繋れていた。スーツの後ろポケットを、煙草の箱で膨らませるのは彼の癖だった。少しごつごつした手が、彼女の髪を撫ぜる。『お似合い』のカップルだった。そうそう、今日はクリスマス・イヴだっけ……。

 クリスマス市をでてイルミネーションへ戻ると、LEDの光は一斉に消えてしまった。時計台は十時を指していた。そうか、もう終わってしまったのだ。
 手稲に戻る電車の中で、明日の断りのラインを送った。ほどなくして「わかった」とだけ返事が来た。

部屋に戻ると、ルームメイトが笑顔で迎えてくれた。知ってか知らずか何も聞かない彼女の優しさを感じる。「今日は冷えるね」そう言って入れてくれたココアの甘さが、体にじんわりと染みた。
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